*誘蛾灯 ―鳥取連続不審死事件
毎週月曜日のTBSラジオ『デイキャッチ』で共演中の青木理氏の近著を読ませていただいた。さすが、鍛え抜かれた元“社会部記者”のルポだ。足を使って掘り起こしていく事件の謎解きが、期待通り読み応えたっぷりの読み物に仕上がっている。
どう考えても魅力的な女性とは思えない、5人の子持ちの肥った中年のホステスが、なぜ、刑事や新聞記者を含む男達を次々と籠絡して、破滅の道に追い込むことができたのか。その深い謎の解明は、本書を貫く主題だ。その謎はクライマックスで著者自身が刑務所に被告人を訪ねる体当たり取材によって身を以て解明して見せるので、じっくり最後まで読んでみては如何だろうか。正体を見破った途端に爆発しそうな怒りを感じながら、それを抑えて冷静に取材記者の視点を保って筆を運び続ける著者の伊吹を読み取れる読者は、かなりの読書家か、それとも熱烈な青木理マニアのどちらかだろう。
そして、この事件が持つ独特の気持ち悪さと並んで、背中に感じる寒気をいやがおうにも増幅するのが、豊富な現地取材の結果として描き出される、経済的な繁栄から取り残された鳥取という街の風情だ。そこには、地方の荒廃を放置し続けてきた国造りの失敗に批判的な筆者ならではの洞察眼がある。
最後に、もう一つ。著者と同業のジャーナリストとして私自身が驚きを禁じ得なかったポイントも紹介しておこう。それは、本書の中でさりげなく青木氏が警鐘を鳴らしてみせた日本の刑事司法の劣化という問題だ。この程度の警察、検察の調べと、この程度の弁護団の弁論によって、極刑が下されて、一人の人間の命が奪われるのは、果たして社会正義に適うのかという問題提起と言い換えてもよいだろう。
『死刑制度』存続の是非を問いかける青木氏に、我々はなんと答えるべきなのだろうか。
青木理著
(2013年11月11日発行、講談社、1600円+税)
|