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*誘蛾灯 ―鳥取連続不審死事件

 毎週月曜日のTBSラジオ『デイキャッチ』で共演中の青木理氏の近著を読ませていただいた。さすが、鍛え抜かれた元“社会部記者”のルポだ。足を使って掘り起こしていく事件の謎解きが、期待通り読み応えたっぷりの読み物に仕上がっている。
 どう考えても魅力的な女性とは思えない、5人の子持ちの肥った中年のホステスが、なぜ、刑事や新聞記者を含む男達を次々と籠絡して、破滅の道に追い込むことができたのか。その深い謎の解明は、本書を貫く主題だ。その謎はクライマックスで著者自身が刑務所に被告人を訪ねる体当たり取材によって身を以て解明して見せるので、じっくり最後まで読んでみては如何だろうか。正体を見破った途端に爆発しそうな怒りを感じながら、それを抑えて冷静に取材記者の視点を保って筆を運び続ける著者の伊吹を読み取れる読者は、かなりの読書家か、それとも熱烈な青木理マニアのどちらかだろう。
 そして、この事件が持つ独特の気持ち悪さと並んで、背中に感じる寒気をいやがおうにも増幅するのが、豊富な現地取材の結果として描き出される、経済的な繁栄から取り残された鳥取という街の風情だ。そこには、地方の荒廃を放置し続けてきた国造りの失敗に批判的な筆者ならではの洞察眼がある。
 最後に、もう一つ。著者と同業のジャーナリストとして私自身が驚きを禁じ得なかったポイントも紹介しておこう。それは、本書の中でさりげなく青木氏が警鐘を鳴らしてみせた日本の刑事司法の劣化という問題だ。この程度の警察、検察の調べと、この程度の弁護団の弁論によって、極刑が下されて、一人の人間の命が奪われるのは、果たして社会正義に適うのかという問題提起と言い換えてもよいだろう。
 『死刑制度』存続の是非を問いかける青木氏に、我々はなんと答えるべきなのだろうか。
青木理著
(2013年11月11日発行、講談社、1600円+税)

 


*システム障害はなぜ二度起きたか   2011年3月。東日本大震災がもたらした混乱のさ中に、よく似た構図の2つのディザスター(大惨事)が進行していた。一つは福島第一原子力発電所の事故、もう一つは、みずほ銀行のシステム障害である。
 よく知られているように、みずほが大規模なシステム障害を起こしたのは、今回が初めてのことではない。2002年4月の同行誕生の際にも、開業初日からトラブルが発生、収束に1ヶ月以上を要した。
 なぜ、みずほは重い教訓を活かせず、システム障害を繰り返したのか。本書は、情報システムの問題を鋭く分析しながら、その元凶がどこにあるか切り込んでいく。そして、その元凶を放置すれば、遠からず、「三度目」が起こるという。
 福島原発事故にも当てはまる本書の警鐘には、すべての日本人が無関心ではいられないはず。必読の1冊ではないだろうか。
 
日経コンピュータ編
(2011年8月1日発行、日経BP社刊、1500円+税)



NTTの自縛   最近よく目にするNGN(次世代ネットワーク)とは、インターネットと同じプロトコルを利用して、一つの回線で固定・携帯電話、データ通信、映像まで提供する仕組みだ。NGNによって、音声や映像の品質が向上・高速化し、セキュリティーも強化される。しかも、通信会社はコストを削減できるので、ユーザー料金が下がる。
 NTTは2008年3月、この最新のネットワークのサービスを始める予定だ。財務が悪化しつつある同社にとって、収益構造を転換する切り札になるはずのNGNだが、筆者は「危機的な状況にある」という。NTT自ら「フレッツの後継」に過ぎないような印象を与えてしまっているからだ。
なぜか。筆者は、「『何がいくらでできるようになるのか』というユーザーの利便性」の視点が、NTTに決定的に欠けていることを指摘する。電話網のNGNへの転換、アクセスとなる光ファイバー三千万回線の敷設など「自己都合な目標」が優先されたために、新サービスの具体像がないのは当たり前だというのだ。
本著は、NTTのグループ会社に勤務経験があるジャーナリストの筆者が、「電話的価値観」にとらわれたNTTの現状を分析し、IP(インターネットプロトコル)時代に生き残れるかを検証している。NGNの未来を占ううえでも、一読をお勧めしたい。

 宗像誠之著・日経コミュニケーション監修
(2008年2月4日発行、日経BP社刊、 1800円+税)



円満退社 江上剛著   出世とは無縁の場末の大手銀行支店長、岩沢千秋(56歳)。34年の我慢の甲斐あって、彼は、めでたく定年退職を迎えた。今日一日を乗り切れば、念願の退職金を手に入れられるのである。ところが、神様は意地悪だ。至るところに、落とし穴が待っている。岩沢の足を引っ張るのは、愚妻や出来の悪い部下たちだけではない。破綻寸前の融資先、右翼の大物、金融庁の検査官…。岩沢は、絶体絶命のピンチを切り抜けられるのだろうか。
常に、新しい分野の開拓に意欲的な筆者だが、元エリート銀行員らしいリアリティと、読む者を安心させる人への優しい眼差しは健在だ。こういう小説が、多くの読者の共感を呼ぶのではないだろうか。

(2005年11月10日発行、幻冬社刊、1700円+税)